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◆Poetry
はじまりの森
目の内側をやさしくつらぬいて夜は明け
鏡はわたしたちをうつすかわりに
見たことのない王国を広げたのだった
まばたきを繰り返すその度に
硝子体に乱立してゆく樹木
網膜にはじけとぶ松の実
わたしたちの眼球はさみさみと露草に濡れている
ほら 目を瞑って
まぶたの裏に映る景色は黒?それとも白?
ここまできたの初めてだよね
行ったら帰って来られないところまで来ちゃったね
隣で笑いながらささやくのは 誰だろう
あらゆる方向の重力にそそのかされるので
わたしたちは自分たちの引力を作り出すため
お互いの両手をしっかり繋いでぐるぐるまわった
それから目がくるめいて螺旋を描きながら
湖に落ちたのはあなただったのかわたしだったのか
夜が明けたのはついさっきだったのに
耳のなかでは湖が揺れて
もうこんなにも闇が深い
湖のなかは気持ちいいね
裏側まで濡れた目だまをわたしたちは互いに入れ替える
わたしの右目あなたの右目わたしの左目あなたの左目
なんて素敵な遊びなんだろう
目を開けると水晶体がぱりんと音を立てて
月が割れ夜が割れあなたが割れ世界はこなごなで
欠片でざりざりする湖にうつぶせになって浮かんでいる
あれはわたしかもしれない
だけど
そんなに脆いわけないでしょう?
鏡の中に飛び散ったふたりを拾い集め
わたしたち嘘の記憶を植え合ってやっぱり
両手をしっかり繋いでぐるぐるまわって
ね、それから
どこに行くんだろう
ね
わたしたちのはじめての目まいは
こんなふうにはじまった
~詩集『耳のなかの湖』より
フランス、パリのGalerie SATELLITEにて開催中のグループ展「第11回 ヴィジュアル・ポエジィ・パリ展」に『百ページ目の雨』という作品を出展中です。デザイナーの森美由紀さんにとっても素敵な墨絵を描いていただきました。計9枚も…感謝です!! (監修*浦貴文氏)